【洋泾浜英语とは?】中国にもあったピジン英語の世界
中国語を学んでいると、「咖啡 kāfēi(コーヒー)」や「沙发 shāfā(ソファ)」といった音訳の外来語に出会うことがあります。実はこれらの語の一部は、かつて上海で使われた 洋泾浜英语 yáng jīng bāng yīng yǔ(Chinese Pidgin English) に由来するのです。
洋泾浜とは?
「洋泾浜(yáng jīng bāng)」は上海・黄浦区にかつて存在した小河の名前で、20世紀初頭には外国人居留地(租界)のあった地域を指しました。この地名が転じて、そこで使われた混合言語の代名詞となり「洋泾浜英语」と呼ばれるようになりました。つまり中国版のピジン英語です。
なお、ピジン(pidgin) とは、共通の言語を持たない人々が意思疎通のために作り上げた、文法が単純化された混合言語のこと。
ちなみに洋泾浜は当時「臭く交通も不便」と評判が悪く、やがて埋め立てられて道路になり、現在の上海市内の大動脈の一つである延安東路となりました。
どんな言葉だったの?
19世紀の上海開港場で、中国人商人と外国人商人がやり取りするために使った即席の言語です。文法は中国語ベース、語彙は英語を簡略化・音訳したものが中心。文字として記録されることは少なく、基本的に口頭のコミュニケーション手段でした。
例文
・我不能(できません)= My no can
・我们什么也不要(何もいらない)= My no wants
・你好吗?(元気ですか)= You belong ploper
・多少钱?(いくらですか)= How muchee belong?
・让我看看(ちょっと見せて)= Let me see see
・他现在在中国(彼は今中国にいる)= He belong China-side now
そして有名なのが、現代英語にも残ったと言われる表現:
・好久不见(久しぶり)= Long time no see
発音の工夫
単語は中国語(とくに上海語)の音に当てはめて覚えられました。そのためクセのある英語の発音だったでしょう。
・come → 康姆 kāng mǔ
・go → 狗 gǒu
・yes → 也司 yě sī
・no → 糯 nuò
・very good → 佛立谷 fó lì gǔ
・brother → 勃拉茶 bó lā chá
・father → 发茶 fā chá
・mother → 卖茶 mài chá
ここでクイズ!
これは何の英語の当て字でしょう?(答えは最下部)
1.雪堂(xuě táng)
2.谷猫迎(gǔ māo yíng)
3.温得拉(wēn dé lā)
4.好度由途(hǎo dù yóu tú)
現代中国語に残る痕跡
当時のピジン語の中には、現在の中国語に完全に定着した語もあります。
- 咖啡 kā fēi(coffee)
- 沙发 shā fā(sofa)
- 三明治 sān míng zhì(sandwich)
- 酷 kù(「カッコいい」の cool)
まとめ
洋泾浜英语は、国際都市・上海の歴史が生んだユニークな言語現象です。短期間しか使われなかったものの、その痕跡はいまも外来語として中国語に残っています。
こうしたピジン英語は上海だけではなく、広州や香港の交易港、さらには日本の横浜や東南アジアでも、現地語と英語が混ざり合った独自の形で使われていました。
つまり、ピジン英語は国際交易の現場から自然に生まれた「ことばの架け橋」だったと言えるでしょう。
中国語学習者にとっても、これは単なる「外来語」ではなく、中国近代史を映し出す“言葉の記念碑”として楽しめる存在なのではないでしょうか。
クイズの答え:
1.雪堂(xuě táng)→sit down
2.谷猫迎(gǔ māo yíng)→good morning
3.温得拉(wēn dé lā)→one dollar
4. 好度由途(hǎo dù yóu tú)→how do you do