中国で流行する「上岸」とは?~「上岸」の言葉が表す中国人の精神~
執筆:GAO老師(サンチャイナ講師)
※本コラムはサンチャイナが一部編集のうえ掲載しています。

皆さんは、中国語の「上岸(shàng àn)」という言葉を聞いたことがありますか。
ちょうど今年の「高考(中国の大学入試)」が終わったばかりですが、中国では試験に合格した時や、就職が決まった時、あるいは人生の大きな目標を達成した時などに、「上岸」という言葉がよく使われます。特に若者の間で浸透している表現です。
もともとの意味は「岸に上がること」。しかし近年では、インターネットを中心に広まり、「困難な状況を乗り越え、目標を達成すること」を表す言葉として使われるようになりました。
狭い意味では、公務員試験や大学院入試などの難関試験に合格を指します。広い意味では、困難な状況から抜け出したり、大きな目標を達成したりすることを表します。
たとえば、理想の会社から内定をもらうことや、借金を完済することなども「上岸」と表現できます。また、場面によっては「悪い道から抜け出して正しい道へ戻る」という意味で使われることもあります。
例えば、
终于收到了第一志愿公司的录用通知,成功上岸了!
(第一志望の会社からついに内定をもらって、無事に「上岸」できた!)
というように使います。この言葉には、人々が安定した生活や成功を求める気持ちが込められているのです。
「苦しみの海」から抜け出す
中国語や中国文化では、「水」や「海」が苦難や危険を象徴することが少なくありません。
その代表的な言葉が、「苦海(kǔ hǎi)」です。
これは仏教に由来するとされ、「苦しみや煩悩に満ちた世界」を意味します。現代中国語でも、「苦しい状況」や「つらい環境」を表す言葉として使われています。そこから派生した表現として、「脱离苦海(tuō lí kǔ hǎi)」(苦しみの海から抜け出す)という言い方があります。例えば、
高考结束了,终于脱离苦海了!
(大学入試が終わって、やっと苦しみの海から抜け出せた!)
のように使います。
こうして見ると、「上岸」と「脱离苦海」は非常に近い発想から生まれた表現だと言えるでしょう。
「苦しみの海から抜け出し、ようやく岸へたどり着く」。
「上岸」という言葉も、そんな中国人の世界観やイメージと深く結びついているのかもしれません。
ただし、「上岸」が若者を中心に使われる現代的なネット用語であるのに対し、「脱离苦海」はやや文語的で落ち着いた表現という違いがあります。
精卫填海という物語
「海」が苦難の象徴として登場する例は、他にもあります。
その一つが、「精卫填海(jīng wèi tián hǎi)」
という成語です。この言葉は中国最古級の神話集物『山海経』に由来しています。
伝説によると、炎帝の娘である女娃(じょあ)は、東海で遊んでいる最中に命を落としてしまいました。その無念から魂は「精卫」という小鳥になったとされています。
精卫は、自分の命を奪った海を恨み、毎日山から小枝や石を運んでは海へ投げ込み続けました。そして、いつか海を埋め立てようと決意したのです。
この故事から生まれた「精卫填海」は、現在では、「強い意志を持ち、困難に負けず努力を続けること」を意味する成語として使われています。
例えば、
如果要实现自己的梦想,就要有精卫填海的精神。
(自分の夢を実現したいなら、精卫填海のような強い意志を持つことが大切です。)
というように使います。
中国語学習も「上岸」を目指す旅
さて、「上岸」という言葉、覚えられましたか。
学業、仕事、結婚、家庭、老後――。
人の一生は、何度も「上岸」を目指す旅のようなものかもしれません。
苦しみの海でもがいている時には、岸がどこにあるのか見えないこともあります。しかし、努力を続けてようやく岸にたどり着いた瞬間、人は大きな達成感を味わいます。
中国語学習もまた、一つの「上岸」を目指す旅と言えるでしょう。
単語が覚えられない。発音がうまくいかない。聞き取れない。話せない。
そんな時もあるかもしれません。
しかし、学習を続けていると、ある日突然「聞こえる」「話せる」と感じる瞬間がやってきます。その時こそ、自分自身の「上岸」の瞬間です。
最後に、唐代の文学者・韓愈の言葉として知られる一句をご紹介します。
书山有路勤为径,学海无涯苦作舟
(shū shān yǒu lù qín wéi jìng,xué hǎi wú yá kǔ zuò zhōu)
学問の海には果てがなく、努力こそがそこを渡る舟である。」
皆さんも、それぞれの「上岸」を目指して、一歩ずつ進んでいきましょう。
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